Gear-Lab・釣具の逸品通販モール
ホームWEB魚図鑑さかなBBS通販法表記

福山克義がつづる
汗と涙と笑いのモノつくりコラム

(6)「物語」で人が集まる魔法の絨毯屋さん

以前、私は6年間大分に住んでいました。ある日曜日の新聞に挟んであった一枚のチラシを今でも忘れません。さえない商店街にある小さな絨毯屋さんのチラシです。

だいたい私はチラシはほとんどみません。束にしたままテーブルの片隅に置いておくとそれを嫁さんがみるという習慣です。しかし、その朝、何気ない白いB4のコピー用紙に黒文字だけの印刷物が気になり斜め読みしてみると、20年前のヨーロッパ放浪の旅行記が書いてありました。右上にヘタなラクダの絵が描いてあります。ふりだしに戻り、全てしっかりと読み直しました。

フランスの国境を越えるために、お金がなくどうしてもビザが取れないのでセーヌ川を闇夜の中を泳いで渡った話、スペインでものもらいをしたこと、そしてアフリカのガーナでは日本人観光客と初めて会ったが、まっ黒に日焼けしており日本人と認めてもらえなかったこと。そんな感じで、ヨーロッパの素晴らしい情景とともに放浪記は情緒深く続くのです。

そして商品の話は、「その旅で出会ったペルシャ絨毯に自分は惚れたんです」という最後の数行。こんな心豊かになれる素晴らしい絨毯はありませんというくだりです。商品説明なし、価格なし、写真なし。特売とも何も書いていません。片隅に店の地図と所在地が小さくありました。何か気になり、そこの店に行きました。

すると、あのチラシを読んで来た人で狭い店は一杯です。とても入れる状況ではありませんでした。店の中であの放浪記の主人公は頭の低いスーパースターです。絨毯の話を腰を低くして熱弁していて、お客は彼の雰囲気に飲み込まれています。道を隔てて見ていた私は拍手を送りたくなりました。

お客様は神様ではないなあとも思いました。あの店主は、ヨーロッパのことも絨毯の素晴らしさも語れる先生です。お客様のニーズ?そんなものありゃしないなと。お客様はそれが何なのか分からないので、それを教えて欲しいと思っているのではないだろうかと。

放浪記というエピソードにひかれて、本物の絨毯の素晴らしさを知りたいとチラシを見て思ったんだなと思いました。ここに来た人しか知らない話を聞けてお客様は満足しています。インターネットもこのように商品説明なし、価格なし、写真なし、特売なしでも売れる可能性があります。特に高額商品は、そうですね。

要するに貴方のファンを作ることです。何も大げさに考える必要はありません。あなたがこれまで蓄えてきた夢や経験、情熱といった財産を語ることで、いえ、たとえ個人的な話ばかりでも、その生きようが商品に反映されていれば、必ず共感してくれる人達がいます。

以前、日経流通新聞でファンレターの来る米屋さんの話を読みました。何気ないA4コピーのチラシが、お年寄りから女子大生までファンを作っているという話でした。貴方が今まで経験してきたことは、色々な回り道があったとしても無駄ではありません。貴方だけしか語れない話を読みたいという雰囲気を作ってあげることです。

商品写真、価格、特徴だけでものが売れると思い込んでいる方が多いのですが、努力すべきなのはそれだけではありません。大切なのはその物語だということなのでしょう。

▼次へ